「俺は仕事ができるはずなのに…」昇進後に突きつけられた厳しい現実
プレイヤーとしては、誰にも負けない自信がありました。トップクラスの営業成績を叩き出し、周囲の期待を背負って課長に昇進。正直、どこかで「自分なら、うまくやれる」と信じていました。
しかし、現実は残酷なほどに違いました。
管理職になった途端、これまでのように成果が出せない。
自分が動けば早いのに、部下に任せると仕事が進まない。良かれと思ってアドバイスすれば「マイクロマネジメントだ」と煙たがられ、チームの雰囲気はどんどん悪化していく…。
「なぜだ?俺は仕事ができるはずなのに…」
焦りと無力感の中でもがいていたある日、私はインターネットで一つの言葉に出会います。 『ピーターの法則』
「組織のあらゆる人間は、自らの無能レベルに到達するまで昇進を続ける」
その一文を読んだ瞬間、全身に冷たい汗が流れるのを感じました。「人は能力の限界まで出世し、そこで無能な存在として固定化される」。まるで、自分のことを言われているようでした。「もしかして、俺はもう“上がって”しまったのか…?」という、言いようのない恐怖。あなたも、この感覚を味わったことがあるかもしれません。
しかし、私はその恐怖から逃げませんでした。この「ピーターの法則」とは一体何なのか、徹底的に調べ、向き合うことにしたのです。そして、ある結論に達しました。
ピーターの法則は、避けられない呪いなどではない。
それは、私たちに成長の必要性を教えてくれる「警告灯」なのだ、と。
もし、あなたが過去の私のように、
- 昇進してから、以前のようにパフォーマンスが発揮できず悩んでいる…
- 「ピーターの法則」という言葉を聞いて、自分の未来が不安になった…
- 「無能な上司」だと、部下から思われたくない…
という、管理職ならではの孤独な恐怖を抱えているのなら、この記事はあなたのためのものです。
この記事を最後まで読めば、あなたはピーターの法則を正しく理解し、いたずらに恐れる必要がなくなるでしょう。そして、無能化の罠を回避し、一人のビジネスパーソンとして、一人の管理職として成長し続けるための、具体的で実践的な「5つの習慣」を手にすることができます。
まず知っておこう。「ピーターの法則」とは何か?
具体的な対策に入る前に、まずは「ピーターの法則」について、簡単におさらいしておきましょう。
これは1969年に、教育学者であり経営学者でもあったローレンス・J・ピーター博士が、自身の著書で提唱した社会学の法則です。
【ピーターの法則の要点】
- 有能なヒラ社員は、有能であるがゆえに昇進する。
- 昇進した先の役職でも有能であれば、さらに昇進する。
- これを繰り返し、いつかその人が**「能力を発揮できない(=無能な)」役職**に就いた時、その人の昇進はストップする。
- 結果として、組織は**「無能な人々で埋め尽くされる」**ことになる。
少し皮肉っぽく聞こえますが、これは多くの組織で起こっている現実です。なぜなら、「優秀なプレイヤー」に必要なスキルと、「優秀なマネージャー」に必要なスキルは、全くの別物だからです。サッカーの名選手が、必ずしも名監督になるとは限らないのと同じですね。
多くの人は、過去の成功体験(プレイヤー時代のスキル)に固執し、新しい役職で求められるスキルを学ばないために、「無能化」してしまうのです。
この法則について、ユーモラスでありながらも本質を突く数々の事例と共に、より深く知りたい方は、ぜひ原典である『ピーターの法則―「創造的無能」のすすめ』を読んでみてください。半世紀以上前の本ですが、その洞察の鋭さには驚かされるばかりです。
- 『ピーターの法則―「創造的無能」のすすめ』のAmazonでの詳細はこちら
無能化の罠を回避する!BONDS式「5つの自己成長習慣」
では、どうすればこの「無能化の罠」を回避できるのでしょうか? その答えは、**「意識的に学び、変わり続けること」**に尽きます。そのための具体的な5つの習慣を、私のフレームワーク「BONDS-METHOD」に沿って解説します。
BONDS-METHODとは? B(Build), O(Observe), N(Nurture), D(Direct), S(Support)の5つの要素からなる、私の万能フレームワークです。今回は、これを「無能化を防ぐ自己成長サイクル」として応用します。
【B】Build:学び続ける「土台」を築く
無能化の第一歩は、「自分はもう知っている」という傲慢さから始まります。常に自分をアップデートし続けるための、学びの土台を築きましょう。
習慣1:アンラーニング(学習棄却)を実践する なぜ重要か? 過去の成功体験が、新しい環境では足かせになるからです。一度、その成功体験を意識的に「忘れる」ことで、新しい知識やスキルを受け入れるスペースが生まれます。 具体的に何をすべきか?
- 「昔はこうだった」「俺の若い頃は…」といった言葉を封印する。
- 自分より若いメンバーや、異業種の人の話に、先入観なく耳を傾ける。
- これまでのやり方が「唯一の正解ではない」と常に自問する。
【O】Observe:自分の「無能の兆候」を客観的に観察する
自分自身を客観視(メタ認知)し、無能化のサインにいち早く気づくことが重要です。
習慣2:自分の「状態」をモニタリングする なぜ重要か? 無能化は静かに進行します。茹でガエルのように、気づいた時には手遅れ、という事態を避けるためです。 具体的に何をすべきか?
- 「会議で自分が一番話していないか?」 → 部下の意見を引き出せていないサイン。
- 「部下からの相談が減っていないか?」 → 心理的安全性が低下しているサイン。
- 「プレイヤー時代の仕事をつい手伝って(奪って)いないか?」 → 権限移譲ができていないサイン。
- これらの兆候に気づいたら、すぐに行動を修正します。
(内部リンク提案) 特に「部下からの相談が減った」と感じる方は、こちらの記事**「【1on1の沈黙が自信に変わる】部下が本音で語り出す!元ダメ課長が教えるBONDS式「傾聴コミュニケーション術」」**で、信頼関係を取り戻すヒントが見つかるはずです。
【N】Nurture:新しい「マネジメントスキル」を意識的に育てる
プレイヤーとしての筋肉は一度忘れ、マネージャーとしての新しい筋肉をゼロから育てる意識を持ちましょう。
習慣3:マネジメントを「専門職」として学ぶ なぜ重要か? マネジメントは、経験や勘だけでどうにかなるものではありません。傾聴、質問、コーチング、フィードバック、目標設定など、学ぶべき専門スキルが無数にあります。 具体的に何をすべきか?
- マネジメントに関する本を、最低でも月に1冊は読む。
- 社内外の管理職向け研修に、積極的に参加する。
- 学んだことを、翌日の1on1やチームミーティングで意識的に使ってみる。インプットとアウトプットを繰り返すことが、スキル習得の最短ルートです。
【D】Direct:「創造的無能」へと、自分を方向づける
これはピーター博士自身が提唱した、最もユニークで効果的な対策の一つです。
習慣4:「やらないこと」を戦略的に決める なぜ重要か? 管理職の時間は有限です。全ての分野で有能であろうとすると、本当にやるべきマネジメント業務に集中できなくなります。 具体的に何をすべきか?
- 自分がプレイヤーとして得意だった専門業務から、意識的に距離を置く。
- 「その件は、私より専門の〇〇さん(部下)の方が詳しいので、彼に聞いてください」と、あえて自分の専門外であることを宣言する。(これが「創造的無能」です)
- これにより、部下は頼られていると感じて成長し、あなた自身はマネジメントという本来の仕事にエネルギーを集中させることができます。
この「任せる」技術は、新任課長にとって最初の関門です。こちらの記事新任課長が着任1ヶ月で絶対にやるべきこと10選【失敗しないスタートダッシュ術】で紹介したアクションとも深く関連しています。
【S】Support:「支援」し、そして「支援」される
完璧な管理職など存在しません。一人で抱え込まず、周りを頼り、周りから頼られる関係性を築きましょう。
習慣5:他者の力を借りることを恐れない なぜ重要か? 無能化の罠にはまる人は、プライドが高く、自分の弱みを見せられない傾向があります。 具体的に何をすべきか?
- 部下を頼る: 自分より優れたスキルを持つ部下がいれば、敬意を払い、積極的にその力を借りる。
- 同僚を頼る: 他部署の管理職と、悩みを共有したり、情報交換したりする場を持つ。
- 上司やメンターを頼る: 自分のキャリアについて、客観的なアドバイスをくれる存在を見つける。
- 「支援する(Support)」だけでなく、「支援される(Be Supported)」ことを受け入れる勇気が、あなたをさらなる高みへと導きます。
昇進はゴールではない。新しい学びのスタートだ
ピーターの法則は、決してあなたを脅すためのものではありません。 それは、**「これまでのやり方だけでは、この先は通用しないよ」という、あなたのキャリアにとって非常に重要なメッセージを伝えてくれる、ありがたい「警告灯」**なのです。
この警告灯が点灯した時、「もう終わりだ」と絶望するのか、「よし、新しいエンジンオイルを入れよう」と前向きに行動するのか。その選択が、あなたの未来を大きく分けます。
昇進は、キャリアのゴールではありません。それは、新しい役割と責任、そして新しい学びの機会が与えられた、エキサイティングなスタート地点です。
プレイヤー時代の成功体験という重い荷物を一度下ろし、マネージャーとして学び続けるという軽やかなフットワークを手に入れた時、あなたはピーターの法則の恐怖から完全に解放され、真に有能なリーダーとして、チームを、そして自分自身を、輝かしい未来へと導くことができるでしょう。
「無能化の罠」を回避するためのセルフチェックリスト
最近の自分を振り返り、3つの項目をチェックしてみましょう。
- □ この1ヶ月で、自分の仕事のやり方を変える「新しい発見」があったか?
- □ 自分の苦手なことや、知らないことを、素直に部下に「教えて」と頼ることができたか?
- □ 部下の成功を、嫉妬ではなく、心からの喜びと称賛で迎えられたか?
もし一つでも「いいえ」があれば、それはあなたの成長の伸びしろです。ぜひ、今日から意識を変えてみてください。
次に読むべき記事のご提案
今回、「創造的無能」を演じ、部下に任せることの重要性を学びました。しかし、ただ仕事を丸投げするだけでは、部下は育たず、チームの成果も上がりません。そこには、部下の能力と意欲を最大限に引き出す、戦略的な「任せ方」の技術が必要です。
そこで、次にあなたに読んでいただきたい記事のテーマは、**「【部下が勝手に育つ】マイクロマネジメントを卒業!信頼を生む“デリゲーション(権限移譲)”7つのステップ」**です。
どこまで任せ、どこまでサポートするのか。その最適なバランスを見極め、部下のオーナーシップを育むための具体的な手法を、私の実体験を基に徹底解説します。ご期待ください。
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