「うちのやり方」と「あっちのやり方」。その不毛な戦いを終わらせるたった一つの質問。

「うちのやり方」と「あっちのやり方」。その不毛な戦いを終わらせるたった一つの質問。[No50]

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あなたのチームは、本当に「一つのチーム」ですか?

あなたのチームは、今、「一つのチーム」として機能しているでしょうか?

それとも、同じオフィスに机を並べながらも、目に見えない境界線で隔てられた「Aチーム」と「Bチーム」という、二つの異なる国が一つの領土の中で緊張状態を保っているだけ、という状況に陥ってはいないでしょうか?

M&A(企業の合併・買収)や会社統合、あるいは大規模な組織変更。近年、ビジネス環境の変化は激しさを増し、多くの企業がこうした大きな変革の波に直面しています。その変化の渦中で、私たちはしばしば「異文化」との激しい衝突に直面します。

「前の部署では、このやり方が常識だった」 「いや、我々のやり方の方が圧倒的に効率的だ」 「元A社の文化は顧客志向。それに比べて元B社は内向きだ」 「B社のやり方はリスク管理が徹底されている。A社は少し楽観的すぎる」

互いの「正義」と「常識」が激しくぶつかり合い、本来は同じ目標に向かうはずのチームは内部で消耗し、生産性は地に落ちていく。会議は紛糾し、何一つ決まらない。廊下では互いの陰口が囁かれ、従業員のエンゲージメントは下がる一方。そして、その不毛な「文化戦争」に、多くのリーダーが頭を抱えているのが現実です。

かつての私も、その一人でした。「どちらの文化に統一すべきか?」という、今思えば完全に間違った問いに囚われ、出口のない迷路をさまよい続けていました。Aのやり方を採用すればBが不満を抱き、Bのやり方を立てればAが反発する。リーダーとして板挟みになり、心身ともに疲弊していく日々でした。

しかし、ある時、私は気づいたのです。この根深い問題を解決する鍵は、「どちらかを選ぶ」という二者択一の発想そのものが間違いなのだと。

私がまさにどん底の中で見つけ出した、たった一つの魔法の問いかけ。 それは、**「で、俺たちの、やり方は、どうする?」**でした。

「うちのやり方」でもなく、「あっちのやり方」でもない。過去のやり方を守るのでも、どちらかに統一するのでもなく、全く新しい**「俺たちのやり方」を、今この場所から、全員でゼロから創り出す**。

この記事では、M&Aや組織統合の現場で頻発する「文化の衝突」という根深い課題を、この「魔法の問いかけ」を軸に解き明かしていきます。なぜ私たちは「うちのやり方」に固執してしまうのか、その心理的・組織的背景を深掘りし、リーダーが陥りがちな罠を解説。そして、チームを本当の意味で「一つ」にし、対立を革新のエネルギーへと昇華させるための具体的なステップと、リーダーとして心得るべき注意点を、私の実体験を交えながら詳しくご紹介します。

もしあなたが今、チームの分断に苦しんでいるのなら、この記事は必ずや、その不毛な戦いを終わらせるための羅針盤となるはずです。

第1章:なぜ「うちのやり方」vs「あっちのやり方」の戦いは起きるのか?

この不毛な戦いを終わらせるためには、まず、なぜこのような対立が生まれるのか、その根本原因を深く理解する必要があります。問題は単なる「性格の不一致」や「コミュニケーション不足」といった表面的なものではありません。その背後には、人間の根源的な心理と、組織が抱える構造的な問題が複雑に絡み合っているのです。

【心理的要因】なぜ人は「自分のやり方」に固執するのか

  1. アイデンティティの防衛本能 私たちは、自分が長年慣れ親しんできた仕事の進め方や、所属していた組織の文化を、自分自身のアイデンティティ、つまり「自分そのもの」の一部として認識しています。それは、単なる作業手順ではなく、自らの成功体験やプライド、価値観と深く結びついています。 そのため、他者から「そのやり方は非効率だ」「こっちのやり方に変えるべきだ」と指摘されると、それは単なる業務改善の提案ではなく、自分自身の経験や能力、ひいては人格そのものを否定されたかのような感覚に陥ります。結果として、私たちは自分を守るために、無意識のうちに相手のやり方に対して攻撃的・防御的になってしまうのです。これは「うちのやり方」を守るための、ごく自然な防衛本能と言えるでしょう。
  2. 変化への抵抗と現状維持バイアス 人間には、現状を維持し、変化を避けようとする「ホメオスタシス(恒常性)」という性質が備わっています。心理学で言うところの「現状維持バイアス」です。新しいやり方を学ぶには、認知的なエネルギー(学習コスト)がかかります。また、慣れない方法を試すことには、失敗するリスクも伴います。 たとえ現状のやり方に多少の非効率さがあったとしても、「よくわからない新しいやり方」を導入するよりは、「慣れ親しんだ安心できるやり方」を続けたいと感じるのは、ごく自然な心理です。この変化への抵抗感が、「あっちのやり方」に対する拒絶反応として現れるのです。
  3. 内集団バイアス(身内びいき)の罠 社会心理学には「内集団バイアス」という概念があります。これは、自分が所属している集団(内集団)のメンバーに対しては好意的・肯定的に評価し、所属していない集団(外集団)に対しては否定的・批判的に評価しがちになる心理的な偏向です。 組織統合の文脈では、「元A社の我々」が内集団、「元B社の彼ら」が外集団となります。「我々のやり方は優れているが、彼らのやり方は劣っている」という無意識の思い込みが、客観的な議論を妨げ、感情的な対立を生み出す大きな原因となります。
  4. サンクコスト(埋没費用)効果 「これまでこのやり方で成功してきた」「このシステムを構築するために、多大な時間と労力を費やしてきた」といった思いも、変化を妨げる大きな要因です。経済学で言う「サンクコスト効果」です。すでに投下してしまい、回収不可能なコスト(時間、労力、資金)を惜しむあまり、それが将来的に最適な選択でないとわかっていても、過去の決定に固執してしまう心理です。自分たちが築き上げてきたものを無駄にしたくないという思いが、新しいやり方を受け入れることへの強い抵抗感につながります。

【組織的要因】対立を助長する構造的な問題

個人の心理だけでなく、組織の仕組みそのものが文化の対立を煽ってしまうケースも少なくありません。

  1. 評価制度の不整合 最も根深い問題の一つが、評価制度の不整合です。例えば、元A社では「スピード」や「挑戦」を重視する評価制度だったのに対し、元B社では「正確性」や「リスク管理」を重視する評価制度だったとします。統合後もこれらの評価基準が曖昧なままだと、A社出身者はB社出身者を「動きが遅い」と批判し、B社出身者はA社出身者を「仕事が雑だ」と批判する構図が生まれます。どちらのやり方が評価されるのかが不明確なため、それぞれが自らの正当性を主張し、対立が激化するのです。
  2. 情報と文脈の共有不足 「なぜ、うちではこのやり方を採用しているのか?」その背景にある理念や歴史、過去の成功体験や苦い失敗談といった「文脈(コンテクスト)」が共有されていないと、やり方そのものだけが独り歩きしてしまいます。相手から見れば非合理的に思える手順も、実は過去のある重大な失敗を防ぐために作られたルールなのかもしれません。こうした背景情報が共有されないまま、表面的なプロセスの優劣だけを議論しても、決して相互理解は深まりません。
  3. リーダーシップの不在または偏り この文化戦争において、リーダーの振る舞いは決定的な影響を与えます。リーダー自身がどちらかの文化の出身で、無意識のうちにそちらのやり方を「正」としてしまっている場合、問題はより深刻化します。リーダーの言動の端々に現れる偏りは、もう一方のチームメンバーの不満と疎外感を増幅させます。 また、対立を見て見ぬふりをし、「そのうち自然に解決するだろう」と問題を放置するのも最悪の対応です。リーダーシップの不在は、チーム内の無秩序と不信感を加速させるだけです。

このように、「うちのやり方」と「あっちのやり方」の戦いは、個人の感情的な問題と組織の構造的な問題が複雑に絡み合った、根深い課題なのです。この構造を理解することこそが、解決への第一歩となります。

第2章:リーダーが陥りがちな「間違った問い」の罠

文化の衝突という困難な課題に直面したとき、多くの誠実なリーダーは、なんとか事態を収拾しようと必死に解決策を模索します。しかし、その善意が、かえって事態を悪化させてしまうことがあります。それは、彼らが「間違った問い」を設定してしまうからです。

罠その1:「どちらの文化に統一すべきか?」という問い

最も陥りがちな罠が、冒頭で述べた「どちらかに統一する」という発想です。一見すると、チームを一つにまとめるためには、一つのルール、一つのやり方に統一するのが最も合理的であるように思えます。しかし、このアプローチは、ほぼ確実に失敗します。

  • 「勝者」と「敗者」を生み出す構造 「Aのやり方に統一する」と決めた瞬間、Aチームは「勝者」、Bチームは「敗者」となります。敗者とされたBチームのメンバーは、自分たちの経験やプライドを否定されたと感じ、深い無力感と屈辱感を抱きます。たとえ表面的には従ったとしても、心の中では強い抵抗感を持ち続けるでしょう。この遺恨は、後々のチーム運営に深刻な影を落とします。彼らは新しいやり方に対して非協力的になったり、些細なミスをあげつらったりと、いわゆる「サイレント・レジスタンス(静かなる抵抗)」を展開する可能性があります。
  • 優れたノウハウや強みの喪失 「敗者」とされた文化の中にも、必ず優れた点や価値あるノウハウ、独自の強みが存在したはずです。統一という名の下にそれらをすべて切り捨ててしまうことは、組織全体にとって大きな損失です。例えば、スピード感のあるA社の文化と、緻密なリスク管理を持つB社の文化があった場合、A社の文化に統一すれば、将来的に大きなリスクを見過ごす可能性があります。多様性こそが組織の強みであるにもかかわらず、統一はその強みを自ら手放す愚行になりかねません。
  • 「見せかけの統一」という時限爆弾 強制的な統一は、表面的な秩序はもたらすかもしれません。しかし、それはあくまで「見せかけの統一」です。水面下では不満と不信感がマグマのように溜まり続け、何か問題が発生した際に「ほら、言わんこっちゃない。俺たちのやり方でやっていれば…」という形で一気に噴出します。これは、常に爆発の危険性をはらんだ時限爆弾を抱えているのと同じ状態です。

罠その2:「良いとこ取りをしよう」という問い

「どちらか一方に統一するのがダメなら、両方の良い部分を組み合わせればいいじゃないか」と考えるリーダーもいます。この「良いとこ取り」アプローチは、一見すると賢明な折衷案のように思えます。しかし、これもまた危険な罠をはらんでいます。

  • 「フランケンシュタインの怪物」の誕生 それぞれの文化における「やり方」や「プロセス」は、単体で存在しているわけではありません。それらは、組織の理念や価値観、他の様々なルールやシステムと有機的に結びつき、一つの生態系として機能しています。その生態系から、都合の良い部分だけを切り貼りして組み合わせると、全体として整合性が取れず、矛盾を抱えた、ちぐはぐで非効率な「フランケンシュタインの怪物」のような仕組みが出来上がってしまう危険性があります。 例えば、A社の「迅速な意思決定プロセス」とB社の「徹底した合意形成プロセス」の良いとこ取りをしようとして、両方を中途半端に導入した結果、意思決定のスピードは落ち、にもかかわらず責任の所在は曖昧になる、といった最悪の事態を招くことさえあります。

罠その3:「時間が解決してくれる」という無責任な問い(あるいは、問いの放棄)

三つ目の罠は、問題の解決を「時間」に委ねてしまうことです。文化の衝突という厄介な問題から目をそらし、「そのうちお互いに慣れて、自然に融合していくだろう」と楽観視し、問題を放置してしまうリーダーも少なくありません。

  • 対立の固定化と深刻化 しかし、文化の対立が自然に解消されることは、まずありません。むしろ、何の介入もなければ、互いの不信感は増幅し、派閥は固定化され、対立構造はより根深いものになっていきます。一度「あいつらは敵だ」という認識が定着してしまうと、それを覆すのは極めて困難になります。放置された問題は、解決が不可能なレベルにまで深刻化してしまうのです。

これらの「間違った問い」に共通するのは、過去のやり方(うちのやり方、あっちのやり方)をベースに物事を考えているという点です。過去の延長線上で答えを探そうとする限り、私たちは不毛な戦いの呪縛から逃れることはできません。 では、私たちはどのような問いを立てるべきなのでしょうか。次章で、その核心に迫ります。

第3章:戦いを終わらせる魔法の質問「で、俺たちのやり方は、どうする?」

過去の延長線上に答えがないと気づいたとき、私たちに必要なのは、視点を180度転換させる、全く新しい問いです。それが、**「で、俺たちのやり方は、どうする?」**です。

このシンプルな問いかけには、チームを分断から創造へと導く、驚くべき力が秘められています。

この質問が持つ「3つの魔法」

  1. 視点の魔法:「過去」から「未来」へ 「うちのやり方」「あっちのやり方」という議論は、常に過去を向いています。どちらが正しかったか、どちらが優れていたかという、後ろ向きの不毛な水掛け論に終始します。 しかし、「俺たちのやり方は、どうする?」という問いは、チームの視線を強制的に未来へと向けさせます。「これから我々はどうするべきか?」という、前向きで建設的な議論のスタート地点に、全員を立たせることができるのです。過去のしがらみを断ち切り、未来志向の対話を生み出す。これが一つ目の魔法です。
  2. 意識の魔法:「他人事」から「自分事」へ 「どちらかに統一する」「良いとこ取りをする」といったアプローチは、どこか「誰かが決めたルールに従う」という受け身のニュアンスを含んでいます。これでは、メンバーはいつまで経っても「やらされ感」から抜け出せません。 しかし、「俺たちのやり方」という言葉は、この課題が他ならぬ「自分たちの」問題なのだという強烈な**当事者意識(オーナーシップ)**を喚起します。自分たちで考え、自分たちで決め、自分たちで創り出す。このプロセスを通じて、メンバーは単なる指示待ちの従業員から、チームの未来を創造する主体的なパートナーへと変貌を遂げるのです。
  3. 思考の魔法:「制約」から「創造」へ 既存のやり方をベースに考えると、私たちの思考は無意識のうちに「AかBか」という制約の枠にはめられてしまいます。 しかし、「俺たちのやり方を創る」という問いは、その枠を完全に取り払います。「AでもBでもない、全く新しいCという選択肢、あるいはAとBを昇華させたDという選択肢があるのではないか?」と、ゼロベースで最適な方法を考えることを促します。これは、対立を乗り越えるだけでなく、これまでにない革新(イノベーション)を生み出す土壌となる、創造性の解放なのです。

「第三の文化」を創造するための具体的な5ステップ

では、この魔法の質問を、具体的にどのようにチーム運営に落とし込んでいけばよいのでしょうか。ここでは、対立する二つの文化を融合させ、全く新しい「第三の文化」を創造するための具体的な5つのステップをご紹介します。

ステップ1:キックオフ宣言「我々は“第三の文化”を創る」 まず最も重要なのは、リーダーがチーム全員を集め、明確な意思表示をすることです。 「今日この瞬間から、我々は『うちのやり方』『あっちのやり方』という言葉を使うのをやめる。私たちの目的は、どちらかに統一することではない。Aチームの素晴らしい文化と、Bチームの素晴らしい文化。その二つを掛け合わせ、全く新しい、どこにも負けない最強のチームカルチャー、言うなれば**“第三の文化”**を、我々自身の手で発明することだ」 この力強い宣言によって、議論のゴールが「統一」ではなく「創造」であることを全員で共有し、プロジェクトのスタートを切ります。

ステップ2:相互理解ワークショップ「なぜ?」を語り合う 次に、互いの文化の背景にある「なぜ(Why)」を深く理解するための場を設けます。単に「うちはこうやっている」という作業手順(What)を説明し合うだけでは不十分です。

  • ストーリーテリング: それぞれのチームが、自分たちのやり方が生まれた背景、大切にしている価値観、過去の大きな成功体験や手痛い失敗談などを「物語」として語り合います。
  • リスペクトの醸成: 「なぜ、彼らはそこまでその手順にこだわるのか?」その背景にある想いや歴史を知ることで、単なる非効率なやり方に見えていたものが、先人たちの知恵の結晶に見えてくることがあります。このプロセスを通じて、相手の文化に対する敬意(リスペクト)が生まれます。

ステップ3:「最高の文化」のポジティブな抽出 相互理解が深まったら、次はお互いの文化の「素晴らしい点」を抽出し、共有します。

  • クロスレビュー: Aチームのメンバーが「Bチームの文化の素晴らしい点、学びたい点」を、Bチームのメンバーが「Aチームの文化の素晴らしい点、学びたい点」を、それぞれ付箋などに書き出し、壁に貼り出していきます。
  • ポジティブな側面に光を当てる: このワークのポイントは、決して相手を批判するのではなく、ポジティブな側面だけに着目することです。これにより、お互いの強みを客観的に認識し、新しい文化を創る上での貴重な「材料」を全員で共有することができます。

ステップ4:「俺たちの共通目的」への立ち返り 文化の議論が白熱すると、私たちはつい内向きになりがちです。ここで一度、視点を外に向け、チームの存在意義そのものに立ち返ることが重要です。

  • ミッション・ビジョンの再確認: 「そもそも、我々チームは何を成し遂げるために存在するのか?」「我々が価値を提供するべき顧客は誰で、その顧客に何を届けるのか?」という、チームの共通目的(ミッション、ビジョン、パーパス)を改めて全員で確認します。
  • 目的からの逆算: この共通目的を最高の形で達成するためには、ステップ3で抽出した「最高の文化のかけら」をどのように組み合わせ、どのような新しいやり方を創り出すのが最適なのか?という視点で議論を進めます。目的がブレなければ、手段(やり方)に関する議論も、より建設的なものになります。

ステップ5:アジャイルな文化創造「まず、やってみる」 完璧な「第三の文化」を設計図通りに一度で作り上げることは不可能です。文化とは、日々の実践の中で育まれていくものです。

  • プロトタイピング: 「まずはこの会議のやり方だけ、新しい方法でやってみよう」「このプロジェクトは、AとBを組み合わせたこの新しいプロセスで進めてみよう」というように、小さな単位で新しい「俺たちのやり方」を試してみます(プロトタイピング)。
  • 振り返りと改善: そして、一定期間試した後に「やってみてどうだったか?(Keep/Problem/Try)」をチームで定期的に振り返り、改善を繰り返します。このアジャイルなアプローチによって、机上の空論ではない、現場に根ざした生きた文化が少しずつ醸成されていくのです。
  • 言語化と称賛: 新しく生まれた良い習慣や行動は、「これが俺たちのやり方だ」と積極的に言語化し、共有します。そして、その新しい文化を体現したメンバーの行動を、リーダーが率先して称賛することで、定着を促します。

この5つのステップは、決して簡単ではありません。時間もエネルギーも必要です。しかし、この創造のプロセスを経ることで、チームは単なる寄せ集めの集団から、固い絆で結ばれた、本当の意味での「一つのチーム」へと生まれ変わることができるのです。

第4章:リーダーとして心得るべきこと、失敗しないための注意点

「第三の文化」を創造する旅は、平坦な道のりではありません。その成否は、リーダーの振る舞い一つにかかっていると言っても過言ではありません。このプロセスを成功に導くために、リーダーが心得るべき4つの重要な心構えと注意点について解説します。

1. リーダー自身の自己変革:誰よりも先に「過去」を捨てる覚悟

この変革プロセスにおいて、最も大きな変化を求められるのは、他の誰でもないリーダー自身です。

  • 自分の「うちのやり方」への固執を断ち切る: リーダーもまた、一人の人間です。自分自身の過去の成功体験や、慣れ親しんだやり方(自分の「うちのやり方」)に無意識に囚われている可能性があります。「私のやり方が最も正しい」という驕りがないか、常に自問自答し続ける謙虚さが求められます。
  • 「答えを知る者」から「問いを立てる者」へ: リーダーの役割は、絶対的な正解を示すことではありません。むしろ、「私にも答えはわからない。だから、皆で最高の答えを探そう」という姿勢で、安全な場(心理的安全性)を創り、メンバーの知恵と創造性を引き出すファシリテーターに徹することが重要です。「教える」のではなく「問いかける」。このスタンスの転換が、チームの主体性を引き出します。

2. 心理的安全性の確保:「何を言っても大丈夫」という土壌づくり

「第三の文化」を創造する対話は、時に意見がぶつかり合う、繊細なプロセスです。メンバーが本音で語り合うためには、「何を言っても非難されない」「失敗を恐れずに挑戦できる」という心理的安全性が確保された環境が不可欠です。

  • 少数派の意見をこそ尊重する: 議論が白熱すると、声の大きいメンバーや多数派の意見に流れがちになります。リーダーは、意図的に少数派の意見や、これまで「敗者」と見なされてきた側のチームの意見に耳を傾け、その意見の価値を認め、議論のテーブルに乗せる努力をしなければなりません。「〇〇さんの意見、面白いですね。もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」といった一言が、発言のハードルを大きく下げます。
  • 「対立」と「人格攻撃」を切り分ける: 健全な意見の対立は、より良いアイデアを生むために不可欠です。しかし、それが個人への非難や人格攻撃に発展しないよう、リーダーは厳しく監視し、介入する必要があります。「意見は対立させても、人は対立させない」というルールを徹底し、あくまでも「課題 vs 私たち」という構造を維持することが重要です。

3. 「感情」への配慮:人はロジックだけでは動かない

文化の衝突は、論理(ロジック)だけの問題ではなく、感情(エモーション)の問題でもあります。新しい文化を創るプロセスは、これまでのやり方を失うプロセスでもあり、メンバーはそこに一種の喪失感(グリーフ)を感じることがあります。

  • 喪失感に寄り添う: 「あなたのチームが大切にしてきたその価値観、素晴らしいですね。それを失うのは寂しいですよね。その想いを、どうすれば新しい文化に活かせるでしょうか?」というように、失われるものに対するメンバーの感情に寄り添い、共感を示すことが、変化への抵抗を和らげます。
  • 非公式なコミュニケーションの活用: 会議室での公式な議論だけでは、決して本音は出てきません。ランチやコーヒーブレイク、時には飲み会といったインフォーマルなコミュニケーションの場を意図的に設けることで、メンバーの個人的な感情や不安、期待などを引き出し、人間的な信頼関係を構築することが極めて重要です。

4. 焦らないこと:文化醸成は「煮込み料理」である

最後に、最も重要な心構えは「焦らないこと」です。

  • 長期的な視点を持つ: 組織文化の創造は、一朝一夕には成し遂げられません。数週間や数ヶ月で結果が出るものではなく、年単位での取り組みになることを覚悟する必要があります。文化醸成は、短時間で具材を炒める「炒め物」ではなく、弱火でじっくり時間をかけて味を染み込ませる「煮込み料理」のようなものです。
  • 結果ではなくプロセスを称賛する: 短期的な成果が出ないからといって、リーダーが焦りを見せると、その不安はチーム全体に伝染します。リーダーは、目に見える結果だけでなく、チームが「第三の文化」を創るために試行錯誤しているプロセスそのものを価値あるものとして認め、メンバーの努力を称賛し続ける必要があります。その粘り強い姿勢が、やがては本物の、強固なチーム文化を育て上げるのです。

【まとめ】戦いの終わりは、最強のチームの始まり

M&A、組織統合、チームの再編…。ビジネスの世界において、異なる文化が出会うことはもはや日常です。そして、そこで起こる「うちのやり方」と「あっちのやり方」の衝突は、多くの組織を蝕む深刻な病です。

私たちは、その不毛な戦いの原因が、人間の心理的本能と組織の構造的問題に根ざしていることを学びました。そして、多くのリーダーが陥る「統一」や「良いとこ取り」といった「間違った問い」が、いかに事態を悪化させるかも見てきました。

しかし、希望はあります。 その不毛な戦いを終わらせ、対立のエネルギーを、かつてないほどの創造のエネルギーへと転換させる、魔法の言葉。

「で、俺たちのやり方は、どうする?」

この未来志向の問いかけは、チームの視点を過去から未来へ、意識を他人事から自分事へとシフトさせ、創造的な対話の扉を開きます。

もちろん、新しい「第三の文化」を創造する旅は、決して楽なものではありません。リーダーには、過去を捨てる覚悟、心理的安全性を守る繊細さ、メンバーの感情に寄り添う共感力、そして何よりも、結果を焦らない長期的な視点が求められます。

しかし、考えてみてください。 互いを「敵」として睨み合っていたメンバーが、「新しい文化を共に創造する仲間」として認識し合い、活き活きと意見を交わし始める。Aチームの強みとBチームの強みが掛け合わさり、1+1が3にも5にもなるような、圧倒的なシナジーが生まれる。

「うちのやり方」と「あっちのやり方」の戦いが終わったとき、あなたのチームは、ただの「寄せ集め」ではない、どこにも負けない強固な絆と競争力を持った、**本当の意味での「一つのチーム」**へと生まれ変わっているはずです。

もし今、あなたがチームの分断に苦しんでいるのなら。 次回の会議で、勇気を持って、この問いを投げかけてみてください。

**「で、俺たちのやり方は、どうする?」**と。

その問いこそが、あなたのチームを本当の「一つ」にする、最初の、そして最も重要な一歩になるはずです。


BONDS-METHOD」の全体像や、今回ご紹介した以外の思考法について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひ以下の記事もご覧ください。あなたのマネジメントや働き方を、根本から変えるヒントがここにあります。

  • BONDS-METHOD記事への誘導: BONDS-METHODの全体像や思想についてさらに詳しく知りたい読者のために、以下の記事へのリンクを設置します。

note記事:https://note.com/embed/notes/nee2435a4f8e6


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