意気込みが空回りした、私の「着任初日」の大きな過ち
「よし、今日から俺がこのチームを変えるぞ!」
課長として初めて自分のチームに出社したあの日、私は燃えていました。前任者から引き継いだ資料を読み込み、自分なりに考えた「チーム改革案」を胸に、意気揚々と最初のチームミーティングに臨んだのです。
「まず、この会議は非効率だからやめよう。そして、新しいプロジェクトとして〇〇を立ち上げる。各自、今日の夕方までに役割分担案を提出してくれ」
自信満々に語る私。しかし、返ってきたのは、メンバーたちの戸惑いが入り混じった表情と、重苦しい沈黙だけでした。彼らの目が「この人、私たちのことを何もわかってないな…」と語っているように見えたのは、決して気のせいではなかったでしょう。
良かれと思ってやったことが、完全に裏目に出たのです。
着任して最初の1ヶ月。私は、チームメンバー一人ひとりと向き合うことよりも、目に見える「成果」を出すことに焦っていました。自分のやりたいこと、正しいと信じることを優先した結果、チームの心は少しずつ私から離れていきました。
この手痛い失敗経験から、私は一つの真理を学びました。 新任課長が着任して最初の1ヶ月でやるべきことは、**「何かを成し遂げる」ことではない。**それは、これから何かを成し遂げるための強固な「信頼の土台」を築くことなのだ、と。
もし、あなたが過去の私のように、
- 課長になったはいいが、何から手をつければいいか分からない…
- 早く成果を出さなければと、焦りを感じている…
- メンバーとどう接すればいいか、手探り状態だ…
といった期待と不安の狭間にいるのなら、この記事はあなたのための「羅針盤」です。
この記事を最後まで読めば、あなたは着任1ヶ月という最も重要な時期に「何を」「どの順番で」やるべきかが明確になり、メンバーからの信頼を最速で獲得し、最高のスタートダッシュを切るための具体的なアクションプランを手に入れることができます。
最初の1ヶ月は「結果」を出すな。「信頼の種」をまけ
本題に入る前に、この記事で私が最も伝えたい結論を述べます。 新任課長として迎える最初の1ヶ月は、畑を耕し、信頼という種をまく時期です。ここで焦って成果という果実を収穫しようとすれば、土壌は荒れ、未来の収穫は望めません。
では、具体的にどうやって畑を耕し、種をまくのか? そのための具体的な10のアクションを、私の課題解決フレームワーク「BONDS-METHOD」に沿って、失敗しないための「型」としてご紹介します。この順番通りに進めるだけで、あなたの課長としてのキャリアは、驚くほどスムーズに離陸するはずです。
なぜ、多くの新任課長はスタートでつまずくのか?
具体的なアクションに入る前に、なぜ多くの新任課長がスタートダッシュに失敗するのか、その理由を考えてみましょう。それは多くの場合、「プレイヤーとしての成功体験」が邪魔をするからです。
- 自分がやった方が早い病: プレイングマネージャーとして、つい自分でボールを抱え込んでしまう。
- 正論で論破しちゃう病: 自分の正しさを証明しようと、メンバーを言い負かしてしまう。
- いきなり改革断行病: 現場の状況を無視して、トップダウンで改革を進めようとする。
これらは全て、課長という「演出家」ではなく、優秀な「俳優」のまま舞台に立とうとすることから生じる悲劇です。最初の1ヶ月は、「俳優」の衣装を脱ぎ、「演出家」として舞台全体を俯瞰する期間だと心に刻んでください。
失敗しないためのBONDS式・着任1ヶ月アクションプラン10選
お待たせしました。ここから、BONDS-METHODの5つのフェーズに沿って、新任課長が着任1ヶ月で絶対にやるべき10の具体的なアクションを解説していきます。
BONDS-METHODとは? B(Build), O(Observe), N(Nurture), D(Direct), S(Support)の5つの要素からなる、私の万能フレームワークです。この流れは、新しいチームで信頼関係を築き、成果を出していくプロセスそのものです。
フェーズ1:【B】Build – 信頼の土台を築く(1週目)
最初の1週間は、何よりも信頼関係の構築に全精力を注ぎます。あなたが何者で、何を大切にしているのかを伝え、同時に相手を知ることに徹しましょう。
アクション1:直属の上司と「期待値」をすり合わせる
目的: あなたに課せられたミッションと、上司からの期待を正確に理解するため。 方法: まず最初に、あなたの直属の上司(部長など)と1on1の時間を取ります。「〇〇部長が、このチームと私に期待されていることを、ぜひ率直にお聞かせください」と切り出しましょう。以下の点を確認します。
- チームに課せられた目標(KGI/KPI)
- チームの現状に対する上司の評価(強み・弱み)
- あなた個人への期待(短期・中長期)
- 「これだけはやるな」という地雷 NG例: 上司との対話なしに、自分の思い込みでチーム改革を始めること。
アクション2:チームメンバー全員と「1on1面談」を実施する
目的: メンバー一人ひとりの人となり、仕事観、悩み、期待を知るため。 方法: 業務時間内に30分〜1時間程度の時間を確保し、メンバー全員と個別面談を行います。これは業務指示の場ではありません。あなたが**「聞く」に徹する場**です。
(内部リンク提案) この1on1の具体的な進め方や、部下の本音を引き出す質問術については、こちらの記事**「【1on1の沈黙が自信に変わる】部下が本音で語り出す!元ダメ課長が教えるBONDS式「傾聴コミュニケーション術」」**で詳しく解説しています。ぜひ、面談の前にご一読ください。
NG例: 面談で自分の武勇伝や改革案を熱く語ってしまうこと。
フェーズ2:【O】Observe – 現状を正しく観察する(2週目)
チームの信頼関係の入り口に立ったら、次は現状を正しく把握します。思い込みや伝聞ではなく、自分の目で見て、聞いて、事実を観察しましょう。
アクション3:主要な業務プロセスとルールを「棚卸し」する
目的: チームの仕事の流れ、暗黙のルール、非効率な点などを客観的に把握するため。 方法: メンバーに「今の仕事のやり方で、『これって非効率だな』『もっとこうだったら良いのに』と思うことがあれば、何でも教えてほしい」とヒアリングします。議事録のフォーマット、報告ルート、使っているツールなど、あらゆる業務を可視化していきましょう。 NG例: 「郷に入っては郷に従え」と、現状を無批判に受け入れてしまうこと。
アクション4:チームの「キーパーソン」を見極める
目的: チーム内で影響力の強い人物や、意見のハブになっている人物を把握するため。 方法: 日々の会話やミーティングでの発言を観察します。「この人の意見には、みんなが耳を傾けるな」「〇〇さんは、いつも他のメンバーから頼られているな」という人物がキーパーソンです。その人がポジティブかネガティブかによって、チームへのアプローチも変わってきます。 NG例: 声の大きい人だけをキーパーソンだと勘違いすること。物静かでも、信頼の厚いメンバーもいます。
アクション5:前任者からの「引き継ぎ資料」を徹底レビューする
目的: 過去の経緯や意思決定の背景を学び、同じ過ちを繰り返さないため。 方法: 前任者が残した資料に、改めてじっくりと目を通します。特に、過去のトラブル報告書や、うまくいかなかったプロジェクトの議事録は「宝の山」です。なぜそうなったのか?という背景を理解することが重要です。可能であれば、前任者に再度話を聞く機会を設けるのも有効です。 NG例: 「過去は過去」と引き継ぎ資料を軽視し、全てをゼロから始めようとすること。
フェーズ3:【N】Nurture – チームの未来を育む(3週目)
現状把握ができたら、いよいよチームが目指すべき未来を描き、その想いをメンバーと共有していきます。
アクション6:チームの「目指す姿(ビジョン)」を言語化し、共有する
目的: チームが向かうべき方向性を示し、メンバーのベクトルを合わせるため。 方法: 1on1やヒアリングで得た情報をもとに、「私たちのチームは、半年後、1年後にどうなっていたいか」というビジョンをあなたの言葉で語ります。「売上No.1」といった結果目標だけでなく、「お客様から最も感謝されるチーム」「日本一、挑戦が称賛されるチーム」といった状態目標を掲げるのがポイントです。 NG例: 会社の理念をそのまま読み上げるだけで、自分の言葉で語らないこと。
アクション7:チームの「強み・弱み」を分析し、メンバーと共有する
目的: チームの現在地を客観的に共有し、当事者意識を持ってもらうため。 方法: あなたが観察して気づいたチームの強みと弱みを、ミーティングなどの場で率直に伝えます。「皆さんの強みは〇〇な点だと感じています。一方で、△△な点は、もっと伸ばせる可能性があるかもしれません。皆さんはどう思いますか?」と、問いかける形で共有し、ディスカッションを促しましょう。 NG例: 弱みばかりを指摘し、メンバーの自信を失わせること。必ず強みを先に伝えます。
フェーズ4:【D】Direct – 具体的な行動へ方向づける(4週目)
ビジョンと現在地が共有できたら、具体的なアクションへとチームを導きます。ここで重要なのは、大きな改革ではなく、「小さな成功体験」を積ませることです。
アクション8:「最初の小さな成功(Quick Win)」を設定し、達成する
目的: チームに「自分たちでも変えられるんだ」という成功体験と一体感をもたらすため。 方法: メンバーから出てきた不満や改善案の中で、最も簡単かつ効果的に実行できそうなものを選びます。「まずは、毎週金曜の定例報告会を、30分早く終わらせることを目指してみない?」といった、小さな目標で構いません。それをチーム一丸で達成することで、改革へのポジティブな雰囲気が生まれます。 NG例: 最初から難易度の高い大きな課題に手をつけて、失敗してしまうこと。
アクション9:チームの「会議体」を一つ見直す
目的: 最も分かりやすい非効率を改善し、あなたの実行力を示すため。 方法: 「アクション3」で見つけた非効率な会議を一つ選び、アジェンダの事前共有、時間厳守、目的の明確化などのルールを導入します。会議は多くのメンバーが不満を抱えているポイントなので、ここの改善は効果絶大です。 NG例: 全ての会議を一度に廃止するなど、混乱を招く急進的な改革を行うこと。
フェーズ5:【S】Support – 継続的に支援する(1ヶ月以降も)
最初の1ヶ月でまいた種を、継続的に育てていくための仕組みを作ります。あなたがメンバーにとって「いつでも頼れる存在」であることが重要です。
アクション10:自身の「相談されやすい仕組み」を作る
目的: メンバーがいつでも気軽にあなたに相談できる体制を整え、問題の早期発見に繋げるため。 方法: 定期的な1on1はもちろんのこと、「毎週〇曜日の午前中は、予定を入れずに自席にいるので、いつでも話しかけてください」といった「オフィスアワー」を設けたり、チャットツールで「雑談・相談チャンネル」を作ったりするのも有効です。あなたが「いつでもウェルカムだ」という姿勢を、行動で示し続けましょう。 NG例:「何かあったら言って」と言うだけで、具体的なアクションを起こさないこと。
【自然な商品紹介:方法A】 私がこのマネジメントの全体像を学ぶ上で、バイブルとして何度も読み返しているのが、元インテルCEOのアンディ・グローブによる不朽の名著**『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』**です。1on1の重要性から会議の進め方まで、マネージャーのアウトプットを最大化するための原理原則が詰まっています。少し古い本ですが、その本質は今も色褪せません。新任課長という節目に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
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最高のスタートダッシュが、1年後のあなたを創る
新任課長としての最初の1ヶ月は、あなたのその後のキャリアを左右する、最も重要で、そして最もエキサイティングな期間です。
今回ご紹介した10のアクションは、派手なホームランを狙うものではありません。しかし、この一見地味なバントや送りバントの積み重ねこそが、チームの信頼を勝ち取り、1年後に大きな得点を生むための唯一の道だと、私は自身の失敗から確信しています。
焦る必要はありません。あなた自身の言葉でメンバーと向き合い、今回ご紹介した「型」に沿って一つひとつのアクションを丁寧に行ってみてください。
あなたの素晴らしいスタートダッシュを、心から応援しています!
「最高の1ヶ月」だったか振り返るためのチェックリスト
1ヶ月後、以下の3つの質問に「はい」と答えられるか、ぜひ振り返ってみてください。
- □ チームメンバー全員の名前を呼び、その人の「仕事における喜び」を一つ以上言えるか?
- □ チームの現状の課題について、メンバーから自発的な改善案が一つでも出てきたか?
- □ 「〇〇課長になって、チームの雰囲気が少し変わったね」と(直接・間接的に)言われたか?
次に読むべき記事のご提案
最高のスタートダッシュを切り、チームの信頼の土台を築いたあなた。次のステップは、そのチームと個人を具体的な「成果」へと導くことです。そのために不可欠なのが、部下一人ひとりの成長を促す「目標設定」と「評価フィードバック」の技術です。
そこで、次にあなたに読んでいただきたい記事のテーマは、「【部下の納得感が劇的に変わる!】OKRも活用した、成長を促す目標設定と“嫌われない”評価フィードバック術」です。
部下のモチベーションを下げずに、高い目標へ導くためのフレームワークと、評価面談で使える具体的なコミュニケーション術を徹底解説します。ご期待ください。
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