[マネジメント]新しいメンバーを迎え入れる環境作り

[マネジメント]新しいメンバーを迎え入れる環境作り

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● 侍ジャパン・ヌートバー選手がチームに溶け込めた理由

米国出身のメジャーリーガー、ラーズ・ヌートバー選手は、WBC(ワールドベースボール・クラシック)で、侍ジャパンに代表入りしたとき、とても緊張したという。

しかしチームメートたちの予想もしない歓迎に心が和らいだそうだ。彼のミドルネームにちなんだ「たっちゃん」という愛称が入った白いTシャツをチームメート全員が着用して迎えたからである。彼はそれに感動し、「みんなが着てくれていたから気が楽になった」と語った。その後の活躍は皆さんもご存じの通り。チームに溶け込み、チームをリードして、日本チームをWBC優勝に導く立役者となった。

この素晴らしい逸話から、考えさせられたことがある。

侍ジャパンはヌートバー選手をうまくチームの一員として迎えることができたのに対し、多くの日本企業は外部から入ってきた中途社員に対して、冷たいのではないだろうか――ということだ。
● 新入社員に手厚く、中途社員に冷たい日本企業

多くの企業では、新卒の社員には入社式やら歓迎会やらで、手厚い導入を行うものの、ことキャリアのある中途採用の社員には冷淡なのである。転職初日は、することがなく手持ち無沙汰なまま放置され、ランチ時にも誰にも声をかけてもらえず、一人でコンビニのランチを買って食べたという話はいまだにあちらこちらで聞く。Tシャツまで作らなくても良いが、せっかく仲間になるのだから、歓迎して受け入れる態勢を作ったほうがその人にとっても、周囲にいる人にとっても良い。

ただ、そうするためにはいくつか工夫がいる。

参考になるのは、心理学者ブルース・タックマンが提唱した「グループ発達段階理論」である。タックマンによれば、最初に必要なのは「形成期」という段階であり、この段階では、メンバー同士がお互いを認識し、グループ内での役割や関係を確立することが重要であるという。

形成期で求められるチームビルディングには、(1)コミュニケーションの「量」が重要、(2)まずは、お互いを知ることが大事であり、そのための機会をできるだけ多く持つことが重要、(3)そして、リーダーはメンバーにプロジェクト趣旨を説明し、役割を定めて明確な指示を出すことが重要である――という。

転職者を受け入れる場合は、既にグループがあるところに人を受け入れ、グループをさらに強く大きく再結成する状況である。したがって、管理職は、グループのメンバーに十分に働きかけ、彼・彼女が入ってくることで、グループが良い方向に変容するよう仕向けなくてはならないのだ。

● 十分な情報開示と役割分担の明確化

まずは、コミュニケーションの量を増やすため、潤滑油となる情報提供を行わなくてはならない。

外部から入ってくる人材がいかなる経歴の持ち主で、どういう分野で成果を上げてきたのか、どんなスキルがあるのか、そして、組織上の上下関係のどこに入るのか、これらについて上司は明確にして、メンバーに開示しなくてはならない。

仕事におけるコミュニケーションの前提となる上記のような情報がないと、メンバーは外部から入ってくる人に対してどのような言葉遣いをすれば良いのかすらわからない。特に日本語には敬語という難しいツールがあるので、年齢はどうなのか、どのくらいのキャリアを持っている人なのかといったことを知らないとうかつに話しかけられないのである。このような基礎情報がなくても巧みにコミュニケーションを取れるムードメーカーがいれば良いが、そういう人は今の職場にはどんどん少なくなっている。

また、外部からの人材と、他のメンバー一人一人との間にどのような共通点があるかを発見しやすいよう、メンバー個々人の情報をお互いに開示し合えるような場とツール(個々のプロフィルを開示する)等が必要である。同じ趣味や出身地などの共通点があれば、そこから関係が深まりやすい。共通の知人の情報も重要である。もちろん仕事をすることがメインの集団なので、過度にプライベートな情報を出したくない人はいるだろう。しかし、気軽に話せるネタがある人が新しい職場に一人いるだけで、転職者は職場に溶け込みやすくなることは経験者なら誰でも感じることだ。

GoogleやSlackなどのグループワークツールの普及で、こうした適度なプロフィルの開示と共有は以前より格段に容易になっているはずで、フルリモートの企業などでは当たり前に行われていることであろう。

そして、管理職は、当人が入ってきた後、チームのゴールに向けて、その人にどのような役割を担ってもらうのか、他のメンバーとの役割分担はどのようにしていくのかを、当人およびメンバーに明示し、仕事の進め方を共有しなければならない。昭和の時代であれば、四六時中メンバーが会社にいて、顔を突き合わせているため、マネジャーの明確な指示抜きでも、なんとなく各自が自動的に業務や役割を分担することができたかもしれない。しかしオンラインとリアルのハイブリッド勤務が当たり前の昨今では、「勝手にやっていいよ」と言っても何も起こらない。

転職者はプロといえども、新しい職場で機能するためには、具体的なゴールとその実現のための仕事の進め方、役割分担や業務調整のための会議の仕方など、その場のルールをしっかりと認識しておかなくてはならない。他のメンバーとやり取りの方法を理解せずに、仕事を進めるのは無理だからだ。


● 最低限の施策はランチ会開催

情報開示と明確な役割分担といったことをやるだけで、当人とメンバーの仕事のやりやすさは格段に上がり、また当人のモチベーションも高く維持される。

しかしながら、多くの会社の多くの管理職はこのようなことをやらない。正しくは“やれない”のだ。もともと、その人に何をやってもらうか明確なイメージのないまま、なんとなくその領域の経験者が欲しいとか、人手が足りないといって採用し、配置し、業務をさせようとしているからだ(採用にかかった経費を本社人事部に支払わないといけないような管理会計制度であれば、真剣さが増し、大きく事態は変わるだろうが、そのような方法を採っている会社は少ない)。

多くの日本企業の管理職は、なぜその人を採用したのか、その人に何をしてもらうのか、どんな役割分担で、どのように機能してもらうかについて、他のメンバーに話せない。採用した人についての明確な情報も覚えておらず、仕事の具体的な進め方のイメージも弱い。妥協を重ねた採用で、メンバーに対して、その人を採用した理由や機能の仕方を語れない場合もあるかもしれない。とはいえ、プロフィルの要点や、今後の活動のイメージくらいは語れるはずだ。

それをやらないから、うまく組織になじめず早期に離職してしまう転職者を多数つくり出している。

今回お伝えしたような受け入れの施策をしっかりすることをお願いしたいのだが、あまり高望みをしても仕方がないので、最低限以下のことをやってはどうかと思う。

転職者の初出社日、無理ならできるだけ早期に、メンバーとともにちょっと長め(といっても1時間半くらいで十分)のランチ会をして、互いの関係を深めるために自己紹介をし合うアイスブレーキングの機会を持つのだ。

飲み会のほうがいいと人もいるだろう。しかし、既に出来上がったグループの酒席に連なるのは転職者にとってはハードルが高い。転職者であろうと、既存の社員であろうと、昨今の社員はかつての昭和企業のような「飲み」ュニケーションに拒否反応を示す可能性もある。ランチくらいのほうが、それぞれの自己紹介を軽くして、よい具合に時間が過ぎて、お開きにできるのでメンバー全員にとっても負担が少ないのである。

ともかく、ランチ会だけでも、よそよそしく遠慮し合う居心地の悪さが解消されることは請け合いである。

仕事なら性別年齢関係なく全員に敬称、敬語。昭和から平成初期産まれに多い、年下か年上かで言葉使い分ける奴はだめ。同僚は友達ではない。

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